あなたへの手紙・日向真理愛

未完成の人生を生きる私が「あなたに会えてよかった。」そう手紙を書きます。

あなたへの手紙・苦しみについて

人が苦しいと感じるのは、迷いの中にいる時かもしれない。少なくとも私の場合、何をすれば良いか解らない時よりも、やるべき事が見つかってからの方が余程楽になる。勿論解っていてもやることができない苦しみも有るのだが、何か解らないモヤモヤした感じの時が一番苦しさを自覚させられる気がするのだ。

よくトンネルを喩えにするが、灯りがない暗闇にあって一筋の灯りがさしたら、どんなに小さくても希望という出口となる。

その灯りを求めて、必至の思いで傷ついたり諦めかけたりしながら辿り着こうと夢中になって歩き続けたとして、最終的にハッピーエンドの結末だったならそれは素晴らしいことだろう。“現実はそれほど甘くないぞ”と、見せられる出口には残酷な奈落の底という瞬間が在るかもしれない。私の人生には確かにそんなことがあった。そして、今もまだその暗闇の中に落ちそうになる。

 

ただ、辿り着くまでの道のりは絶対的に希望へと向かって歩いていた。それは事実だ。

 

必至に現実を生きる小さな私は、高みから見る術を知らないのだから先がどうなっていくかわかる筈はない。それでも、最善を尽くそうと歩くのだ。行き着いた場所が辛い敗北の経験だとしても、そこまでは希望に向かう道だと信じて進み続ける時間が流れるだけだった。

どんなに長く、どこまでも暗い闇が続いていたとしても、また光を見つける日まで暗闇であがき続けるしかない。

 

人間は多かれ少なかれ、苦しみに近づいていく習性が備わっているのだろうと思う。

幼い頃からより良い人に成るためには、少しくらい苦しい思いをしなければいけないという観念のようなものが染み付いてる。

「若い時の苦労はかってでもしろ。」

もう若くはないがそう言うことらしい。

 

目の前に起こった経験をする中で本能的に、自分というものと向き合う機会を苦という中に生み出していたのかもしれない。苦しみは、思い通りにしたいという欲から生まれるのだから。

どちらにしろ、ずっと苦しみから解放されることは無い気がしていた。苦しみは襲ってくるものだ。はまってしまったら足掻くほど捕らえられる。まるで川の深みにのみこまれた時のように。

 

だが、しかし、ふと気が付けば最近の私には、深い苦しみが消えかけている。

 

今までの苦しみという感情とは別のものに変わりつつあると言うことかもしれない。

例えばそれは、疑問に対する答えを探し出そうとする情熱の中に、内在する形で苦しみが包まれるようになったという事だろうか。勿論全く見え無くなる訳ではないのだ。

この場合の包み込む疑問というのは、果たしてこの苦しみから希望に向かうにはどの方向に努力したら良いか。とか、何を基準として苦しみから希望を見出だすのか。または、何故今このようなことが起きるのだろうか。といったような思考のことなのだが、そこから苦しみの感情が消えてしまう訳ではない。時にチクチクと針で刺されるように、胸をえぐられるように感情としての苦しみは在り続ける。今は只それを苦として自覚しているだけで、そこに留まって沈みながら溺れる程のことがなくなっただけだ。

そこに留まらなくなると、苦しみが大きくなったり、他に波及して広がったりはしない。

ただ、そこに苦しみが在るということだけになった。

 

そんなことを言っても、これから訪れる未來によってはそうも言っていられない時がやってくるかもしれない。

そうしたらその時に、自分はどうしたいのかを自分で考えてみよう。素直にそう思う。 

例えばいつかまた、大きな苦しみに襲われたら、やはり逃げ出したくなるのだろう。きっと私は暗闇を逃げまわってのたうち回るだろうな。

逃げ切れないと腹を括って苦しみに向かう時まで逃げまわるだろう。

そして、逃げ続けた挙げ句、再び光を見つけた時初めて歩き出すのだろう。

その先には、今迄知らなかった初めて見る景色がきっとまた広がって、新しい自分に出逢うことになるだろう。そうなるといい。

 

今の私にとって、苦しみは愛すべき友人だ。

知らなかった沢山のことを教えてくれた。

けれど、いつも側に居ると息苦しい。

できるなら遠くに居て欲しい存在だ。 

少し離れた場所で、こうなって欲しいという希望的観測の塊として在ってくれたらいいかもしれない。

 

まだ苦しみを抱えた今の自分を、少し冷め過ぎていないかと思う程他人事のように眺め、感情から離れた場所にいるもうひとりの自分。そのもうひとりが

「苦しみは金の卵を産む鶏になるかもしれないぞ。」なんてどこからか言ったりするのだ。そして少なからず、こうした言葉にできるようになったこと自体が金の卵に値する。

苦しみは、今居る暗闇の場所から次のステップを踏むスイッチを入れてくれる材料だった。それをいつまでも覚えていよう。踏み出したことに感謝しながら。

 

苦しみを抱えて眠れぬ夜を過ごしていても、

必ず昨日と違う明日が来ることを信じられますように。

 

あなたの苦しい時は

ずっと続かない。

川底から浮き上がる日が

早く来ることを願います。

 

mary